カテゴリ:小さな物語( 71 )

彼女は「ブクブク、ペッしてくださいねー」と言った

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街の歯医者を諦めて、僕は近所の歯医者に行った。
スーパーと同じビルに入っている、庶民的な歯医者だ。
もう夕方だったけれど、院内は子供たちの声で賑わっていた。

街の歯医者と同じことを問診表に書いて、僕は診察室に入った。
歯科衛生士の若い女性が、入念に歯をチェックしている。
やがて、歯医者が現れて、僕の口の中を点検し始めた。

「レントゲンを撮ってみないとわかりませんが」と、彼は言った。
「もしかすると、他にも治療の必要な部分があるかもしれませんが、どうしますか」
「詳しい検査は仕事の落ち着いている時期にしたい」と僕が言うと、彼は頷いた。

「じゃ、今日は被せ物を戻すだけにしましょう」
「やっても意味がありませんか?」と、試しに僕は訊いてみた。
彼は笑って、「落ち着いたら、また来てください」と言った。

やがて施術は終わり、彼は診察室を出て、小さな子供が待っている隣の診察室へと戻っていった。
歯科衛生士の若い女性が、僕の口の中を丁寧に洗浄した。
どうやら、被せ物は無事に元通りになったらしい。

洗浄を終えた彼女は、まるで小さな子供がそこにいるみたいに、「はい、それじゃあ、お口の中、ブクブク、ペッしてくださいねー」と言った。
癒されるんだけど、と僕は思った。
不愉快だった一日がすべて洗い流されたような気がして、僕は診察室を出た。

目があった瞬間、まるで母親みたいな笑顔を浮かべて、彼女は思い切り微笑んでみせた。


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by kels | 2015-03-23 20:10 | 小さな物語

歯医者は驚いたように「被せ物は入れないの?」と言った

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先日、歯医者に行った。
歯医者に行ったことなんて、もう10年以上ないような気がする。
親知らずを抜いたのが最後だったかもしれない。

今回は、昔に作った奥歯の被せ物が、ガムをかんでいるうちに取れてしまったのだ。
痛みがないので、そのままにしておいてもいいような気がしたけれど、やはり、痛くなると困る。
仕事をちょっと抜け出して、街の歯医者へ出かけた。

立派なビルの歯医者だから混雑しているかと思ったけれど、全然客がいなくて、院内は静かだった。
問診表を書くと、すぐに診察室に通される。
口の中を見るなり、歯医者は「いろいろと直さなきゃダメだ」と言った。

取れた被せ物を入れてもらいに行っただけなのに、すごく大掛かりな話になっている。
歯医者はぶっきらぼうに「週に何回来れるんだ」と言った。
仕事が忙しいから、そうそう通うことはできないと言うと、歯医者は、ますます不機嫌そうな表情になった。

「他が悪いんだから、被せ物を戻したって意味がない」と、歯医者は言った。
歯医者に通うなら、きちんと時期を選んで、仕事と調整を図りながら計画的に通わなければならない。
「じゃあ、いいです」と、僕は言った。

歯医者は驚いたように「被せ物は入れないの?」と言った。
「だって、入れたって意味がないんでしょう?」と、僕は言った。
歯医者は少し黙った後で、「その可能性があるということです」と、つぶやいた。

結局、僕は黙って診察室を出た。
受付の女性は、申し訳なさそうに、初診料と診察料を取った。
まるでバカみたいだと、僕は思った。

久しぶりの歯医者だったので、オフィスに近いという理由だけで、病院を選んだのが失敗だった。
もっときちんと事前のリサーチをすべきだったのだ。
少なくとも、歯医者の対する予備知識くらいは、仕入れて。

そして、この話にはまだ続きがある。


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by kels | 2015-03-22 21:05 | 小さな物語

彼女のトレードマークは、その短すぎるスカートだった

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毎朝、地下鉄で一緒になる女の子がいた。
いつも同じ時間に、同じプラットホームから、同じ車両に乗り込むのだ。
学校が休みの日を除けば、彼女はいつでも僕のすぐ前を滑るようにして、地下鉄の中に乗り込んでいった。

彼女のトレードマークは、その短すぎるスカートだった。
彼女を初めて見る男性は、誰もが一瞬ぎょっとして、彼女の脚を見た。
高校の規則どおりとは思えない高校の制服が、彼女のトレードマークだったのだ。

もちろん、真冬の、最高気温が氷点下になるような日にも、彼女のスカートの短さは変わらなかった。
もっとも、彼女はスカートの下に、ジャージの短パンを履きこんでいたから、周りが心配するほど寒くはなかったのかもしれない。
地下鉄のプラットホームで、いつでも彼女は丹念に、スカートの中のジャージが見えることのないように、その短パンを短く折り込んでいた。

大抵の場合、途中の駅から男の子が乗り込んできて、彼女と一緒になった。
男の子と一緒になるために、彼女はいつでも同じ時間の、同じ地下鉄に乗り込んでいたのだろう。
最初に男の子が下車して、次の駅で僕が降り、彼女を乗せた地下鉄が、いつでもそのまま走り去っていった。

気が付くと、彼女を初めて見つけた日から、3年間が過ぎていた。
そして、気が付くと、毎朝の地下鉄風景から彼女の姿が消えていて、僕の周りには、3年前と同じように無機質な風景だけが広がっていた。
まるで、どこか遠い国を一回りしてきて、再びスタート地点に戻ったみたいに。


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by kels | 2015-03-09 20:08 | 小さな物語

ある日、彼女が「このまま一緒に暮らさない?」と言った

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水曜日の夕方の街角で、不意に彼女と再会した。
それは、あまりにも突然のことで、一瞬、僕はそれが誰かを思い出すことができなかった。
「ずっと昔に知っていた人」だと、僕は思った。

「ずいぶん久しぶりね」と言って、彼女は笑った。
14年振り、あるいは、15年振りくらいかもしれない。
今さら、こうして偶然に再会することが、奇跡であるかのようにさえ思えた。

彼女は、あの頃と何も変わっていないように、僕には思えた。
けれども、ゆっくりと彼女の表情を見ていると、そこには確かに時間の流れが刻まれていた。
15年間という時の流れは、僕たちの取り分を取ることを忘れてはいなかったのだ。

あの頃、僕も彼女もまだ独身だった。
二人とも、まだ20代前半で、社会人としての右も左も分からないような年齢だった。
自分たちだけが、すっかりと大人気取りで浮足立っていた。

彼女に誘われて、僕は時々彼女の自宅で食事を食べた。
彼女は母親と二人暮らしで、僕らは三人で彼女の母親の作った料理を食べた。
いつ行っても、手間のかかった丁寧な食事が、食卓の上に並んでいた。

僕は学校を卒業して、すぐに地元の出版社で働き始めていた。
彼女はまだ学生で、来年の就職をどうしようかと悩んでいるところだった。
僕らは食事をしながら、いろいろな話をした。

ある日、彼女が「このまま一緒に暮らさない?」と言った。
「どういう意味?」と僕が言うと、彼女は少しだけ意味ありげに笑った。
「そういう意味よ」

いつの間にか、3人で食事をすることが当たり前になりかけていた。
あるいは、僕たちは、まるで一つの家族のように思い始めていたのかもしれない。
少しの不自然さもなく、ひとつの違和感もないままに。

僕が彼女の家へ帰らなくなったのは、いつの頃からだっただろうか。
僕の部屋には、彼女の知らない女の子が暮らし始め、僕たちは別々の人生を歩き始めていた。
気が付けば15年が過ぎ、僕たちは15年分の年齢を取って、不意の再会をした。

「結婚してるの?」と、彼女は言った。
「うん」と、僕は答えた。
僕は、なんだか泣きたいような気がして、どうしようもなかった。

「君は?」と、僕は言った。
彼女は、あの時と同じように、少しだけ意味ありげに笑ってみせた。
「一人よ、もちろん」

街の陽は暮れ始め、雑踏の中で、僕たちだけが行き場を失って立ちつくしていた。


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by kels | 2014-05-15 21:48 | 小さな物語

彼女の残した手紙を読みながら、珍しく僕は寂しい気持ちになった

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人付き合いが嫌いだという割りに、友人の多い学生生活だった。
長い学生生活で得たものといえば、この友人くらいだったかもしれない。
一人暮らしだったけれど、一人でいる時間を確保することが難しいくらい、いつでも誰かがそばにいた。

考えてみると、寂しいなんてことを考える暇のない生活だった。
好きな女の子をこっそり部屋に招くにも、誰かに見つからないように注意しなければいけなかった。
うっかり油断していたら、知らぬ間に誰かが住み着いていたとしても、おかしくないような暮らしだったのだ。

とにかく、いろいろな種類の人間が、僕の部屋のドアをノックした。
噂を聞いて、ほとんど交流のない人間までが現れては、他愛のない話をして帰っていった。
まるで診療所みたいなものなんだから、と僕は思った。

ある夜、遊びから帰ってくると、ドアノブに小さなビニール袋がぶら下がっていた。
僕のいない間に、誰かがこの部屋を訪れたらしい。
外出することも多かったから、こうして誰かと行き違いになることは珍しくなかった。

ビニール袋の中には、洋菓子と手紙が一通入っていた。
手紙には女の子の名前があり、彼女はお菓子だけ置いて帰ってしまったのだろう。
時計は既に、新しい日付に切り替わろうとしているところだった。

彼女の残した手紙を読みながら、珍しく僕は寂しい気持ちになった。
「ごめんなさい」と、彼女は書いていた。
彼女は僕に一体何を謝ろうとしていたと言うのだろうか。

明日になれば、またすぐに会うことができる。
会って、その理由を聞けばいい。
僕はそう思っていたけれど、僕の考えていた「明日」は二度とやってくることはなかった。

彼女は、ふと姿を消してしまい、二度と学校へ現れることはなかったからだ。
彼女が学校を辞めるという話を聞いていた者は、誰もいなかったらしい。
彼女はまるで影が薄れていくみたいに、すうって消えていなくなってしまったのだ。

まるで残像みたいに彼女の小さな手紙だけが、僕の手元には残されていた。
彼女が何を謝ろうとしていたのか、今は知るすべもない。
そして、彼女の「ごめんなさい」という言葉は、今も癒えないカサブタみたいに僕の中に刺さったままだ。


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by kels | 2014-05-13 21:29 | 小さな物語

記憶にも残らないような恋の記憶が、僕の胸の中に確かに埋もれている

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夕食を終えた後、音楽を聴きながら、ゆっくりとコーヒーを淹れた。
最近の僕のルーチンな日課だ。
音楽を聴きながら珈琲豆を挽き、音楽を聴きながらコーヒーをドリップし、音楽を聴きながらコーヒーを飲む。

昨夜は、クロスビー、スティルス&ナッシュの懐かしいアルバムを聴いた。
今日は、エヴァリー・ブラザーズの古いロックンロールを聴いている。
たったそれだけのことで、今の僕は何となく幸せだ。

コーヒーを飲みながらエヴァリー・ブラザーズを聴いていると、何だか切ないような気持ちになる。
ずっと昔に失くしたものを、不意に思い出した時のような、あの切なさ。
ずっと忘れていたものを、突然見つけてしまったときのような、あの切なさ。

エヴァリー・ブラザーズの甘いバラードは、遠い昔に恋をした女の子のことを思い出させる。
とても幼い頃に抱いていた、甘くて切なくて他愛ない、恋とも呼べないような恋。
記憶にも残らないような恋の記憶が、僕の胸の中に確かに埋もれている。

メアリーへのメッセージ。夢を見るだけ。愛をささげて。
優しくて温かいメロディが、僕の胸の中で凍り付いた記憶を、少しずつ溶かしていく。
何て切なくて、何て懐かしい音楽なんだろう。

バイ・バイ・ラヴ。起きろよスージー。ラブ・オブ・マイ・ライフ。
コーヒーが冷めるのも忘れて、僕は1950年代の懐かしいメロディに夢中になっている。
今日はひとつ良いことがあったねと、それだけで僕は満足してしまう。

今、僕のエヴァリー・ブラザーズは、「もう気にしないよ」を歌っているところだ。


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by kels | 2014-05-08 19:52 | 小さな物語

社会で生きていくってことは何て寂しいことなんだろうと、彼女はそのとき初めて感じた

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仕事帰りの電車通りで、ふと彼女は足を止めた。
桜の花が咲いているのだ。
ここ数日間の暖かさで、桜の開花も一気に進んだのだろう。

桜の花を見たとき、彼女は突然自分が現実世界に引き戻されたような気がした。
考えてみると、この一か月は、季節の移り変わりのことなんか気にする余裕もなかった。
彼女は、この4月に転職したばかりなのだ。

夕陽を浴びてオレンジ色に光っている桜の花を見て、彼女は懐かしい人のことを思い出していた。
そして、学生時代に憧れていた世界と現実とのギャップについて苦々しく感じた。
あの頃の仲間たちは、みんなうまくやっているのだろうか。

学生の頃、彼女には少しだけ好きになった男の子がいた。
特別な進展があったわけではないけれど、特別な進展を予感させる雰囲気はあった。
少なくとも、彼が東京の出版社へ就職して札幌を離れてしまうまでは。

気が付けば、自分だけがどんどん一人ぼっちになっていくような気がする。
いつまでもあの頃にしがみついていたくはないと思う自分と、まだあの頃を失いたくないと考える自分。
社会で生きていくってことは何て寂しいことなんだろうと、彼女はそのとき初めて感じた。

しばらく桜の花を見上げた後で、彼女は鞄の中からスマートフォンを取り出した。
そして、カメラを立ち上げると、桜に向かってスマホを構えた。
私は誰かに、この桜の美しさを伝えてあげたい。

桜の花は、さっきよりもずっと鮮やかにオレンジ色に輝いていた。
太陽は、今、まさに西の空の向こう側へと沈もうとしている。
彼女はもう一度、スマホの画面にタップして桜の写真を撮った。

私は誰かと、この桜の美しさを共有したい。

やがて、太陽は完全に沈み、桜は街の残照を浴びて最後の輝きを見せている。
一日が終わるのだ。
太陽が沈む瞬間を見ることなんて、一体いつ以来のことだろうか。

今夜、彼女は久しぶりにメールを送ってみようと思った。
東京で頑張っている人へ、北海道の春を届けるのだ。
何かが始まるかもしれないし、何も始まらないかもしれない。

とにかく彼女は、この胸の切なさを誰かに伝えずにはいられなかった。
陽は既に遠い空の向こう側へとすっかり沈んだ。
そして彼女は、太陽の沈んだ方角に向かって、再び歩き始めた。


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by kels | 2014-05-07 19:36 | 小さな物語

学生時代最後のラーメンは、いつもよりもしょっぱいような気がしていた

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卒業祝賀会が終わったあと、僕は仲間たちと2次会へと流れた。
みんな、ビジネススーツにネクタイをしめて、カラオケのマイクを握り締めていた。
大人になるっていうことは、こういうことなんだろうかと、僕はずっと考えていた。

10日も経ってしまえば、自分たちが社会人になってしまうという感覚が、どうしても分からなかった。
馬鹿騒ぎの宴会の中で、あるいは僕だけが、きちんと卒業することができずにいたのかもしれない。
何だか自分がひどく中途半端で、薄ぼんやりとした存在であるかのように思われた。

仲間たちは、相変わらずサザンオールスターズを熱唱していた。
彼らは、1年生の頃からこうやって同じようにサザンオールスターズを熱唱していたのだ。
だけど、彼らの歌声もサザンの歌も、あの頃とは何だか全然違うもののように感じられた。

マイクを持っても、自分が何を歌っているのか、僕はまともに理解することができなかった。
歌っているのが誰なのかさえ、僕には分かっていなかったのかもしれない。
カラオケのメロディと一緒に、このままフェードアウトして消えてしまうんじゃないかと、僕は思っていた。

時間とともに、人数は少しずつ少なくなっていて、僕は残ったメンバーと一緒にラーメン横丁へ行った。
男が3人、女の子が2人だっただろうか。
熱いラーメンをすすりながら、女の子が言った。

「ねえ、また、こんなふうにして、みんなで騒いだりできるかな」
歌いすぎたせいなんだろう、声が少し枯れて聞こえた。
「いつでも集まることができるさ」

ラーメンをすする音に紛れて、誰かが言った。
「俺たちはずっとそんなふうにして、仲良くやってきたんだから」
それきり誰もしゃべらなかった。

僕らは何も言わずに、ただ黙々とラーメンを食べ続けた。
狭い店内には、白い湯気がもうもうと立ち込めている。
ストーブの上では、沸騰したやかんがしゃんしゃんと音を立てていた。

このラーメンを食べ終えたら、いよいよ僕らは卒業するのだ。
そう考えた時、僕は、卒業するまでの間にやり残したことのすべてが、この一杯のラーメンに埋められているような気がしていた。
「また集まろうね」と、もう一度、彼女が言った。

なんて食べにくいラーメンなんだろうと、僕は思った。
もしかすると、僕だけが、最後のラーメンを食べ終えることができないのかもしれない。
学生時代最後のラーメンは、いつもよりもしょっぱいような気がしていた。


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by kels | 2014-02-25 20:02 | 小さな物語

彼女との思い出は思い出のままでいいんだ、と誰かが歌っていた

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日曜日の午後で、僕はいつものとおり小説を読みながらラジオを聴いている。
子供の頃からテレビが嫌いで、ラジオばかり聴いているうちに大人になった。
「あなたって、相当変わってるわよ」と、彼女は冷めた目で、僕にそう言ったものだ。

一昔前のヒットナンバーが流れるたびに、僕は胸の高鳴りを感じた。
ラジオを聴いているときは、いつでもそうだ。
ヒットナンバーの一曲一曲に、自分の爪痕みたいなものが残っているんじゃないかと思うくらいに。

今でも一番辛いのは、彼女と別れたばかりの頃に聴いていた音楽たちだ。
まるで引きこもりのようになって、その頃の僕は、異常なくらいにラジオばかり聴き続けていた。
自分を救ってくれそうなものだったら、ラジオでもアマチュア無線でも自動販売機でも、何だってよかったのだろう。

たった半年前の曲なのに、あの頃の音楽はやけに昔の音楽のように感じられた。
こんな音楽を何百時間も聴きながら、僕はようやくあの寂しい季節を乗り越えたのだ。
DJはしつこいくらいに時代遅れのヒット曲を流し続けている。

「あなたって、相当変わってるわよ」
僕はもう何だかうんざりとしてしまって、小説の続きを読むことをあきらめた。
スマートフォンを取り上げてメール画面を開くと、そこには彼女からのメールがまだ残されたままだ。

誰かにメールをしたいと思ったけれど、それすらも馬鹿馬鹿しいように思えた。
気が付くと番組が変わっていて、次のDJが語り始めていた。
ラジオのチャンネルを切り替えるみたいに、気持ちを切り替えることができたらいいのに。

最新のナンバーをお届けしましょう!、とDJは叫んだ。
ラジオを聴きながら、僕は部屋の模様替えを始めた。
彼女との思い出は思い出のままでいいんだ、と誰かが歌っていた。


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by kels | 2014-02-02 07:52 | 小さな物語

明けない夜がないのと同じように、終わらない冬はないっていうことは分かっている

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札幌パルコを出て歩き始めたとき、僕らの目の前を歩いていた女の子が、隣の彼氏に向って「もう春だね」と言った。
1月下旬、吹雪の札幌市内である。
もちろん、彼女は店内のディスプレイの話をしたのだけれど、彼氏はちょっときょとんとしていた。

僕自身、店先に春物の洋服が並び始めて、春の装いをどうしようかなどと考えているうちに、頭の中がすっかりと春モードになってしまった。
のみならず、気持ちは完全に春モードになっているので、さらにそこからちょっと先取りした気分になって、さて、夏の装いどうしようかなんてことを考え始めている。
ありえないんだけど、実際(笑)

どうにも素直に冬を楽しむということができないらしい。
一秒でも早く冬が終わらないものかということばかり考えて、春だの夏だのといった先のことばかり考えている。
一体、何か月先になるんだろう、北海道で夏の洋服を着ることになるのって。

だけど、北海道の冬の過ごし方なんて、多かれ少なかれ、大体似たようなものなんじゃないだろうか。
冬のスポーツが好きな人たちにしたって、春の訪れを待ちわびない人はない。
人間として快適に暮らすことのできる環境を求めるのは、生物学的に言っても当たり前のことなのだ。

それにしても、昨年の夏の雑誌などを読んでいると、夏の装いっていうのは本当に簡単でいいなと思う。
今の季節には、白いコットンのTシャツの上に、オックスフォードの白シャツを羽織り、その上にクルーネックのウールセーターを着て、さらに重たいダッフルコートで全身を包み、それでも隙間があるとまだ寒いから、マフラーと帽子と手袋で完全防備までして、足元もウールのソックスと防寒ブーツを履いて、ようやく外出することができる。
Tシャツにショートパンツ、裸足にサンダルで出かけられた季節があるなんて、まったく嘘みたいだ(笑)

明けない夜がないのと同じように、終わらない冬はないっていうことは分かっている。
分かっていても長すぎる季節っていうのが、この北海道の冬ってやつなんだろうな。
まあ、時には夏の雑誌でもめくりながら、自分を励まし勇気づけてやるしかないか(笑)


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by kels | 2014-02-01 04:04 | 小さな物語