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006 マッチ箱の日記

古道具屋の片隅に段ボール箱が置かれていて、中にはマッチ箱が詰め込まれていた。
3個で100円とか、そんな商売だったように思う。
箱の中には、いったいいくつのマッチ箱が放り込まれていただろうか、ひとつひとつ選んでいく気にもなれず、段ボール箱全部まとめて譲ってもらえないかと訊ねたところ、心よくオーケーの返事。
中途半端に売れ残るよりも、さっさと片付けてしまいたいと思ったのかもしれない。
ほとんど捨て値みたいな値段で、僕は大量のマッチ箱を手に入れた。

部屋に戻って、買ってきたばかりのマッチ箱を整理しているうちに、そのうちのいくつかのものには、箱の余白に小さなメモ書きがあることに気がついた。
たとえば、こんなメモだ。

'63.12.9
大塚が帰って来て、皆と。
(「ブラジルレイロ」のマッチ箱)


記述を拾っていくと、どうやら、このマッチ箱コレクションは、北海道大学の農学部の学生が、1963年から1966年にかけて収集したものであり、彼は小樽の実家から通学していたのではないかと推測された。
マッチ箱は小樽の家から買い出しされたものであったみたいで、小樽の喫茶店を中心に、札幌の喫茶店やバーのものがほとんどだった。

'64.9.11
山崎と阿寒行きの話で駅に。
(「日本食堂 札幌駅北口」のマッチ箱)


骨董屋で古い手紙や日記を見つけることは珍しいことではないが、マッチ箱に書かれた日記というのは、さすがに初めてだった。
小さな箱の余白に書かれた小さな文字は、手紙や日記帳を見るよりも、ずっと神聖で重い行為のような気がした。

細井
ダンスに夢中。道路で練習。
福井
「ボンソワールの夫婦のことがあった。 夢がひとつずつ消えていった。
 近年の自己に対する信用。知らずに人を傷つけて、また大人になってきた。
 夢がひとつずつ消えていった。友達に言えない些細なこと」

「そんな友達やめろ!」 親のきまって言う言葉。
4時まで勉強した。
大人と子供の中間の自分!
(小樽のティールーム「約束」のマッチ箱)


古道具屋の片隅から掘り起こす誰かの青春。
そんなところにも、僕の骨董屋巡りの原因があるような気がした。


by kels | 2011-05-01 21:33 | 古物・雑貨
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