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「札幌市電が走らなかった日」~雪の街から

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札幌の町に吹雪が襲来し、小学校ではいそいで学堂を下校させたが、中に一人行方不明になった子があった。
吹雪がやんでから手分けして探したところ、その子は雪の下でランドセルを枕にし、外套をかけて寝ていたので助かったという新聞記事を読んだのは、何年前のことだったろうか。
その記事を読む私の耳には、ひゅうっと空気を切るすさまじい風の音がきこえ、湯けむりのようにもうもうと視界をさえぎる雪の渦巻が見えた。

「ふるさと十二ケ月」森田たま(1967年)

大雪のために、市電が運休している。
札幌市電始まって以来のことではないだろうか。
雪のために市電が動かないなどということは、まったく考えられないことだからだ。

朝、目を覚ますと、窓の外が真っ白で何も見えなかった。
吹雪の日には珍しくない光景である。
いよいよ本格的な冬が始まったのだと、改めて実感させられる。

雪の中、電車通りを自動車で走りながら街に向かう。
除雪がしっかりとしているのか、考えていたよりも路面に雪はなかった。
思ったほど、積雪は多くなかったのかもしれない。

途中でササラ電車とすれ違った。
ササラ電車は、雪の中で一息ついて休んでいるように見えた。
そう言えば、街に到着するまで市電の姿を一両も見なかったような気がする。

買い物をしているときに、ラインが入った。
大雪のために札幌市電が全面運休しているという。
どおりで、まったく市電を見かけないはずである。

それにしても、札幌市電が全面運休するなんて、ただ事ではない。
過去、どれだけの豪雪に見舞われても、市電は走り続けてきた。
雪のために市電が止まることなんてあり得ないと、僕たちは信じてきたのだ。

実際、電車通り界隈の住人になって、もう随分長い時間が経つけれど、市電は常に走り続けていた。
渋滞の自動車が軌道を塞いで電車の通行を妨げることはあっても、積雪のために市電が止まることはなかった。
雪に負けないという関係者の強い思いが、市電の運行を支えていたに違いない。

その札幌市電が走らなかった。
この12月の一日を、僕はきっと忘れることがないだろう。


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by kels | 2016-12-10 17:04 | 冬のこと | Comments(0)

意外な話だけれど、美しい雪景色の街というのは、シーズンにそう何回もない

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私はこの烏の鳴き声がきらいであった。
いまでも思い出すと、家々の煙突から吐き出される石炭の煙、すすで黒ずんだ雪、灰色の曇った空を、一層強く頭に刻み込ませるように、烏の鳴き声がそのにび色の風景をかがっている。
十二月の札幌に楽しいことは何もなかった。
学校からの帰りは、いつも後ろから迫ってくる年に追いかけられるような、せかせかとした気持ちで歩いていた。

「明治の女」森田たま(1967年)

雪の降らない話を書いたら、やっぱり雪が降った。
毎年、こんなことを繰り返しているような気がする。
心配しなくても、冬の北海道では、ちゃんと雪は降るものなのだ。

一昨日の夜から昨日の朝にかけて、すいぶんたくさんの雪が降った。
早朝の街は、真新しい雪に覆われていて、いつもとは全然違う街だった。
嫌なものを全部隠してしまう雪というのは、あんな雪のことを言うのだろう。

週末にも雪が降るかもしれない。
いや、ぜひとも、たくさん降って、そして積もってほしいものだと思った。
買ったばかりの新しいカメラで、雪の札幌を撮りたかったのだ。

意外な話だけれど、美しい雪景色の街というのは、シーズンにそう何回もない。
そもそも、ドカ雪というのは、年に何回あるだろうかという気がする。
それに、風が強いと樹木や電線に積もった雪が飛ばされてしまって、美しい雪景色にはならない。

しかも、自分は週末でなければ、のんきに写真を撮っているわけにもいかない。
そう考えると、札幌の長い冬であっても、意外とチャンスは数少ないのだ。
だからこそ、その雪景色が貴重だとも言えるのだけれど。


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by kels | 2015-12-19 19:36 | 冬のこと | Comments(0)

いよいよ雪の季節になったと思ったら、いきなりドカ雪になった

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五番館というデパートの、大きな明るいショーウィンドゥ、雪の中でもそこだけは、春のように暖かな感じがする。
その硝子窓へ頬を寄せて、舶来の洋品雑貨を覗いている自分の姿、ショーウィンドゥの光は、往来へまで降りこぼれて私の髪に、肩に、ちらちらと降る雪を、夢のように照らしていた。

「雪のふる町」森田たま(1962年)

いよいよ雪の季節になったと思ったら、いきなりドカ雪になった。
札幌の11月としては、記録的な大雪だったらしい。
最近の気候は、まったく極端すぎるね。

本来、雪というのは、何となく街を塗り替えていくものである。
降っては溶けて、積もっては溶けてを繰り返しながら、やがて本格的な積雪となる。
雪国の人たちは、それを「根雪」と呼ぶ。

映画みたいに、一夜にして降り積もった雪で、冬が始まるというわけではない。
まして、最初からドカ雪なんて反則だ(笑)
すぐに溶けると思っていたから、道路なんか除雪も入らなくて大混乱してしまったくらいだ。

始まったね、今年の冬が。


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by kels | 2015-11-28 05:43 | 冬のこと | Comments(0)

本っていいなあと思う瞬間のひとつに、古い話を読んだ時というのがある

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ゆく春の一夜、私は不意にお迎えのくるまを頂いて、ある家へ行った。
久保田万太郎さんが、小宮(豊隆)先生のために設けた席であった。
「ナニ、酒も飲まない、煙草も吸わない、だからあんなものしきゃ書けないんだ」
既に十分の御機嫌であったらしい久保田さんは、お酒の飲めないという私に、いきなりそう言ってななめに睨みすえられた。

「随筆歳時記」森田たま(1940年)

本っていいなあと思う瞬間のひとつに、古い話を読んだ時というのがある。
自分の知らない昔の話も、本として残されることで、現代に伝えられる。
本ってすごいなあ。

古本集めなんていう趣味も、世の中にはあるらしい。
古い時代を探しまわることも、魅力のひとつくらいには入っているのかもしれない。
本っていうのは、実にリアルなタイム・カプセルなんだから。

上の文章は、昭和15年に発行された、森田たまの随筆集に掲載されていたもの。
文壇のビッグネームが、次々に登場してきて、戦前の文学界の息遣いを教えてくれる。
文壇が文壇らしかったのって、戦前までなんだよね、きっと。


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by kels | 2015-11-23 07:25 | 本・雑誌・古書 | Comments(0)

森田たまの記憶の中の札幌には「ライラック」という花の存在はなかった

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五、六年前、私はNHKからたのまれて、五月の末のライラック祭りというのへ出かけて行った。
ライラックなんてどこに咲いているんですかと、出かける前に私は文句を言ったが、行ってみたら会場に白と紫のライラックが、あふれるように活けてあったのでびっくりした。
さらにあくる日、山鼻の方へ車を走らせて行ったら、あちらこちらの家に、ライラックの白や紫が咲いているので一層驚いた。
大通りの一角に、まだ稚ない樹が植わっていた。

「明治の女」森田たま(1967年)

森田たまが故郷札幌を離れて上京したのは、明治末期のことである。
彼女の記憶の中の札幌には「ライラック」という花の存在はなかったらしい。
ライラックは、戦後になって急速に札幌の街に普及した花だった。

今、札幌の街には、彼女が戦後になって見た札幌の街が、今も残されている。
あちらこちらの家に、白や紫のライラックが咲いている5月の光景が。
昭和モダンの洋館、戦後のライラック、森田たまの記憶。

50年前もの街の記憶が今に残されているのだとしたら、それは本当に素晴らしいことだ。


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by kels | 2015-05-17 20:44 | 夏のこと | Comments(0)