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025 ダンス・ダンス・ダンス(村上春樹)

■概要
1988年出版。
タイトルの「ダンス・ダンス・ダンス」は、ビーチボーイズの同名曲からの引用であるが、物語の重要なキーワードともなっている。
なお、タイトルに関しては、作者は「ザ・デルズという黒人バンドの曲名から取った」としている。
いわゆる鼠3部作シリーズの続編で、特に「羊をめぐる冒険」からの直接的な発展型小説となっている。
1988年といえば、日本はバブル景気に沸いている時代であり、そんな時代の空気に敏感に反応した作者の社会批判が根底にある。


■あらすじ

前作「羊をめぐる冒険」の中で、ガールフレンドと離ればなれとなってしまった主人公は、彼女が自分を探し求めているような気にとらわれ、再び、札幌の「いるかホテル」を訪れる。何もかもが変わってしまった「いるかホテル」で、主人公は不思議な力を持った少女「ユキ」と出会う。大量生産大量消費社会の中で生きる登場人物たちを次々と巡る不可解な死。
主人公は、この社会の中で、「うまく踊り続けなければならない」。

「羊をめぐる冒険」が、「前半:東京→後半:北海道」であったのに対し、「ダンス・ダンス・ダンス」では「前半:北海道→後半:東京」と構成されており、一連の物語が結末を迎えたことを連想させている。


***


いるかホテルは現実に存在するホテルだ。
札幌の街のあまりぱっとしない一角にある。


いるかホテルは、もちろんフィクションの存在である。
設定としては、南4条西4丁目、ススキノの一画であり、札幌の中では決して「ぱっとしない一角」ではないと思われる。


***


僕は札幌の街につくと、ぶらぶらいるかホテルまで歩いてみることにした。
風のない穏やかな午後だったし、荷物はショルダー・バッグひとつだけだった。
街の方々に汚れた雪がうずたかく積み上げられていた。
空気はぴりっと張り詰めていて、人々は足下に注意を払いながら簡潔に歩を運んでいた。
女子高生はみんな頬を赤く染めて、勢いよく白い息を空中に吐き出していた。
その上に字が書けそうなくらいぽっかりとした白い息だった。
僕はそんな街の風景を眺めながら、のんびりと歩いた。
札幌に来たのは四年半ぶりだつたが、それはずいぶん久し振りに見る風景のように感じられた。


冬の札幌の光景が描かれた微笑ましいシーンである。
札幌駅からススキノまでは地下鉄駅2つ分であり、散策にはちょうど良い距離である。


***


いるかホテルの場所を僕ははっきりとは覚えていなかったので、それがすぐに見つかるかどうかいささか心配だったのだけれど、心配する必要なんて何もなかった。

ホテルはすぐに見つかった。
それは二十六階建ての巨大なビルディングに変貌を遂げていた。
バウハウス風のモダンな曲線、光り輝く大型ガラスとステンレス・スティール、車寄せに立ち並ぶポールとそこにはためく各国旗、きりっとした制服を着込んでタクシーを手招きしている配車係、最上階のレストランまで直行するエレベーター…
そんなものを誰が見落とすだろう?

生まれ変わった「いるかホテル」のモデルとしては、これまでに2つのホテルが取り上げられている。
①ホテルアーサー札幌(現・ホテルノボテル)と②ホテルアルファサッポロ(現・ホテルオークラ札幌)である。
いずれも所在地や描写から、モデルとなったホテルを推察することは困難である。
村上作品の場合、オリジナル設定が多く、モデルを特定することは非常に困難であると思われる。


***


昔と比べると、いるかホテルのある地域ははっきりとした変化を見せていた。
もちろん昔といってもたかが四年ちょっと前のことだから、僕らが昔見かけたり入ったりした店の大方はそのままの形で残っていた。
街の雰囲気も基本的には昔どおりのものだった。
しかしそれでもこの近辺で何かが進行しつつあるということは一目で見てとれた。
何件かの店は戸を閉ざし、そこに建築予定の札がかかっていた。
実際に建築中の大きなビルもあった。
ドライブ・スルーのハンバーガー・ショップやら、デザイナーズ・ブランドのブティックやら、欧州車のショールームやら、中庭に沙羅の樹を植えた斬新なデザインの喫茶店やら、ガラスをふんだんに使ったスマートなオフィスビルやら、そういう以前にはなかった新しいタイプの店や建物が、昔ながらの古ぼけた色あいの三階建てのビルや暖簾のかかった大衆食堂やいつもストーブの前で猫が昼寝している駄菓子屋などを押しのけるような格好で次々に現れていた。


80年代後半、バブル景気と地価高騰の中で、札幌の街も大きく変貌を遂げた。
ただし、都心部に「ドライブ・スルーのバーガーショップ」があったかどうかは不明。
古い建物と新しい建物が一時的に共存する移行的光景は、札幌の街にもあっただろう。

古い「いるかホテル」については、『ひつじをめぐる冒険』を参照のこと。


by kels | 2011-05-01 21:14 | 旧・札幌文化系コラム | Comments(0)

024 羊をめぐる冒険(村上春樹)

【概要】
1982年、「群像」に発表された、第3作目の長編小説。
いわゆる「僕と鼠もの」3部作シリーズの第3作で、ジャズ喫茶「ピーター・キャット」をやめ、専業作家として初めて書いた小説といわれている。
北海道への取材旅行は、1981年10月に行われた。
この作品の続編として、「ダンス・ダンス・ダンス」がある。

【あらすじ】
友人と二人で広告代理店を営む主人公は、ある業界紙の広告に使った1枚の写真から事件に巻き込まれる。
その写真に写っている羊を探すため、彼女と2人で北海道を訪れるが、作業はなかなか進まない。
ついに見つけた写真に写っている場所は、学生時代の親友と主人公とを再び結びつけることとなった。

***

千歳空港で荷物を受け取って外に出ると空気は予想していたより冷やかだった。
僕は首に巻いていたダンガリのシャツをTシャツの上に着こみ、彼女はシャツの上から毛糸のベストを着た。
東京よりちょうど一ヶ月分早く秋が地上に腰を据えていた。

季節は10月、札幌はそろそろ秋が深まり、冬への準備が始まる頃である。

***

我々が観たのは犯罪ものとオカルトものの二本立てで、客席はガラガラにすいていた。
これほどすいた映画館に入ったのも久し振りだった。
僕は暇つぶしに観客の数を数えてみた。
我々を入れて八人だった。
映画の登場人物のほうがずっと多い。

当時の村上春樹のエッセイの中に、札幌の映画館について触れられている。

それはそうと札幌には十軒の映画館がまとまって入ったビルがあって、これは凄いね。
(「村上朝日堂」収録『旅行先で映画を見ることについて』)

このビルは、「札幌須貝ビル」(現在のスガイシネプレックス)のことを示すと思われる。

***

我々は歩き疲れると目についたレストランに入り、生ビールを二杯ずつ飲み、じゃが芋と鮭の料理を食べた。
でたらめにとびこんだわりには料理はなかなかのものだった。
ビールは実に美味しかったし、ホワイト・ソースはさっぱりとしてしかもこくがあった。

上記「旅行先で映画を見ることについて」のエッセイでは、札幌のビールについても触れられている。

それで札幌で何をしたかというと、まずビヤホールに入って生ビールを三杯飲んで昼食をとり(北海道で飲むビールはなぜあんなにうまいんだろう?)、それから「ランボー」と「少林寺」の二本立てを見た。
次に夕食をとって、当然またビール。

村上春樹は、札幌で飲むビールが相当にお気に入りだったらしい。

***

いるかホテルは我々の入った映画館から西に向けて通りを三本進み、南に一本下がったところにあった。
ホテルは小さく、無個性だった。
これほど個性がないホテルもまたとはあるまいと思えるくらい無個性なホテルだった。
その無個性さにはある種の形而上的な雰囲気さえ漂っていた。
ネオンもなく大きな看板もなく、まともな玄関さえなかった。
レストランの従業員出入口みたいな愛想のないガラス戸のわきに「ドルフィン・ホテル」と刻まれた銅板がはめこまれているだけだ。
いるかの絵さえ描かれていなかった。
建物は五階建てだったが、それはまるで大型のマッチ箱を縦に置いたみたいにのっぺりとしていた。
近くに寄ってよく見ればそれほど古びているというわけでもないのだが、それでも人目をひくほどには十分古びていた。
きっと建った時から既に古びていたのだろう。
これがいるかホテルだった。

小説の中で重要な舞台となる「いるかホテル」の登場である。
「映画館」(前述の札幌須貝ビル)の住所が南3条西1丁目であるので、ホテルの住所は南4条西4丁目あたりということになる。
国道36号線に面する、ススキノの一角で、ちょうど市電の電停「すすきの」の辺りである。
「いるかホテル」のモデルについては、当時からいろいろな議論があったが、正確なところは不明のままである。
これまでに出た説としては、①ホテルアーサー札幌(現・ノボテル札幌)、②ホテルアルファ(現・ホテルオークラ札幌)の2軒があるが、いずれも小説の中の「いるかホテル」とは似ても似つかぬホテルである。
これらのホテルについては、「ダンス・ダンス・ダンス」に登場する改築後の「いるかホテル」をイメージするものらしい。

***
やれやれ、と僕は声に出して言った。
それからもう一度無駄であることが認識された作業にとりかかり、五時の鐘を聞くと公園のベンチに座って鳩と一緒に玉蜀黍をかじった。

公園はもちろん「大通公園」であり、玉蜀黍(トウモロコシ)はワゴン売りのものだっただろう。
明治時代に石川啄木の歌に詠まれて以来、トウキビ売りは札幌の象徴である。

***

札幌の街は広く、うんざりするほど直線的だった。
僕はそれまで直線だけで構成された街を歩き回ることがどれだけ人を摩耗させていくか知らなかった。
僕は確実に摩耗していった。

明治初期、京都をモデルとして都市計画が進められた札幌都心部は、東西南北を碁盤の目状に区画して作られている。
「うんざりするほど直線的」という表現は実にそのとおり。


「いるかホテル」は、続編「ダンス・ダンス・ダンス」の中で大きな変貌を遂げる。


by kels | 2011-05-01 21:13 | 旧・札幌文化系コラム | Comments(0)

「羊博士」のモデル

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昭和40年代、道立滝川畜産試験場では、日本でも珍しい「めん羊の研究」が進められていたが、当時はまだ北海道においてさえ羊に対する認識度は低く、その研究は大変なものであったという。
「ラム」という言葉さえ、一般にはまだ通じなかった。

昭和50年代に入り、折からの減反政策への対応策として「めん羊飼育」に注目が集まり、北海道における羊の可能性が本格的に議論されるようになった。

この研究者の元へ、東京の出版社からの紹介によって、ひと組の男女が訪れたのは、そんな時代のことである。
時代は1970年代、一見ヒッピー風の若夫婦は、研究者のもとへ一日滞在し、羊について非常に熱心に勉強していったという。
研究者は、そのときのことを振り返り、「羊を飼育するために勉強しているのだと思った」そうだ。

時が経ち、その研究者の元へ一冊の本が届けられた。
小説の名前は「羊をめぐる冒険」、送り主の名前は作者である村上春樹であった。
研究者は、本が届いた時の感想について、こう述べている。

よく分からなかったなあ。
本人の印象と本の内容は随分違っていたけれど。
でも、羊舎での羊の行動が2、3か所違ってるところがあるねえ。
牛と間違えてるんじゃないかと思うんだけどね。

この研究者、平山秀介氏こそ、「羊をめぐる冒険」に登場する「羊博士」のモデルであると語り継がれており、道北を舞台にした名作の陰の立役者であるということができるだろう。

「新版 札幌食べたい読本」亜離西社(1994年)より。

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by kels | 2011-02-20 20:18 | 旧・札幌日和下駄 | Comments(0)

ノルウェイの森

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オフィスの仲間たちと、一度だけスキー旅行に出かけたことがある。
就職して1年目の冬だ。
就職して2年目の冬に僕は会社を退職しているから、それが唯一の参加機会だった。
格別人付き合いが良いわけでもなく、同世代の仲間たちがほとんど参加しないスキー旅行になぜか僕は参加をして、同僚たちと一緒に真冬のニセコへと向かった。

ホテルに到着しても、僕はスキーに出かけるわけでもなく、温泉に入ったり、本を読んだりしてのんびり過ごした。
「スキー場まで来て、おかしなやつだな」と、誰かが言った。
「できないなら教えてあげるわ」と、親切な先輩が言った。
僕の故郷は山の中の炭鉱町で、家はスキー場のすぐ真下にあったから、スキーだけは物心付いたときから嫌というほど滑った。
他に、遊ぶべきものが何もない街だったのだ。

みんながスキーに出かけている間、僕は何度も温泉大浴場に入り、何も考えずに、ぼうっととしていた。
何も考えないということが、実に久しぶりだということに、そのとき初めて僕は気づいた。
どうでもいいことをあれこれと考えながらあくせく生きているのが、僕の人生だった。

風呂上がりには、村上春樹の「ノルウェイの森」を読んだ。
あまりにも流行して、誰も彼もが良いと言ったその小説を読むのは、僕にはそれが初めてのことだった。
旅先のホテルで、一人になって読む「ノルウェイの森」は悪くなかった。

夕方、みんなで卓球遊びをして、酒を飲み、夜更けまで麻雀をした。
男も女も雑魚寝の一室。
みんな酔いつぶれた部屋を抜け出して、僕はロビーで小説の続きを読んだ。
寒くなったら、風呂に入れば良かった。

翌日もみんなはスキーに出かけ、僕は相変わらず温泉に入ったり小説を読んだりして、のんびりと過ごした。
1泊2日の旅行の間に、「ノルウェイの森」は読み終えてしまいそうだと思い始めた頃、突然、館内放送が僕の名前を告げた。
ロビーに行くと、女性の先輩が足を骨折したために、救急車で搬送されていくところだった。
仲間たちは、誰も事故に気がつかずに、まだ山の中で滑っているらしかった。
「大丈夫、心配することは何もありませんよ」と、僕は言った。
やがて、僕らは病院で応急処置の終わった彼女を連れて、札幌へと戻った。
「ノルウェイの森」は、もう少しのところで読み終わらなかった。

松葉杖の彼女をマンションの部屋まで送り届けてから、僕は自分のアパートの部屋へと戻った。
一晩留守にしただけですっかりと冷え切った部屋は、気温以上に冷たい気がした。
とりあえず、と僕は思った。
とりあえずはビートルズでも聴こう。
「ノルウェイの森」の乾いたメロディが、チリチリと音を立てながらレコード盤から流れてくるのを確認して、僕は小説の続きを読み始めた。

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by kels | 2010-12-08 20:17 | 旧・札幌日和下駄 | Comments(2)

青春の終わり

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人は青春の終わりを、いつ知るのか。

村上春樹の古いエッセイの中に、初めて会った女性に、「あなたは僕の初恋の人に似ている」みたいな話をしたところ、「男の人って、みんなそういうこと言うんですよね」と言われてしまい、あー、僕の青春は終わったんだなと感じた、というエピソードがある。

僕が青春の終わりを感じたのは、20代後半に入ったばかりの頃のことで、仲間達が立て続けに結婚をした一時期があり、みんなの結婚パーティーをやりながら、俺達の青春も終わったんだなあと、リアルに感じた。
ピークは、ある年の7月のことで、僕自身の結婚式を皮切りに、3週連続で仲間達の結婚式が続いた。
呼ばれる方は溜まったもんじゃないよね、本当に。

僕自身も、結婚式の翌日から新婚旅行に出かけて、翌週の仲間の結婚式に合わせて帰ってきた。
新婚旅行の帰りに、そのまま友達の結婚式に出席したのだから、考えてみると、すごい話だ。

考えてみると、あの(自分の)結婚式の日が7月10日だった。
そうか、今日はいわゆる結婚記念日になるのか(笑)

EOS Kiss Digital X / EF50mmF1.8 / clear


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by kels | 2010-07-10 22:39 | 旧・札幌日和下駄 | Comments(4)

羊をめぐる冒険

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どういうわけか、パソコンの隣に、村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」の文庫本(それも下巻)が置いてあり、何気なくそれを手に取ってパラパラと読んだ。
やっぱり昔の村上春樹はおもしろいやと思いながら、ページを読み進めるうちに、なんだってこんなに中途半端な読書をしているのだと思い返して、まずは上巻から読まなくてはと、上巻を探しだした。

しかし、「ダンス・ダンス・ダンス」の上巻から読み始めたところで、それはやっぱり中途半端な読書であり、今読むべきものはもっと他にあるような気がした。
そう、毎年必ずこの時期には読んでいるはずの小説。

そんなわけで、僕は「羊をめぐる冒険」の文庫版(上巻)を探しだしてきて、昨夜から読み始め、ようやく下巻の半分程度まで読み進んだ。
小説でいうと、「彼女」は山を下り、「僕」だけが今にも雪が降り始めそうな山の上の牧場に取り残されたあたりだ。
この「今にも雪が降り始めそうな」季節が、毎年この時期に、この小説を読みたくなる理由である。
おまけに「いるかホテル」は札幌市内にある。

この小説を読み終えたら、僕は次に「ダンス・ダンス・ダンス」を読まなくてはならないだろう。
それにしても、昔の貯金を取り崩していくような、この読書スタイルはどうにかならないだろうか。
何度も読み返したいと思えるような「新しい」小説に、もう何年も出会えていないような気がする。

とにかく今は、北海道の羊の物語を読み進めるしかないわけなのだが。


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by kels | 2009-11-01 20:19 | 旧・札幌日和下駄 | Comments(0)

「羊をめぐる冒険」と札幌

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実に久し振りに「羊をめぐる冒険」を読みました。
もちろん、村上春樹さんの初期の名作です。
本当は、「ダンス・ダンス・ダンス」を先に読んだのですが、「ダンス」を読んでいるうちに「羊」が読みたくなってしまって、逆の順番で読んでしまったというわけです。
「羊をめぐる冒険」は、村上さんのデビュー作「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」の続編といわれる作品で、初期の3部作と呼ばれたているものです。
3作品に共通しているのは登場人物で、語り手である主人公、その親友である「鼠」、そして2人の行きつけのバーの店主である「ジェイ」の3人です。
3部作の中で、登場人物達は確実に年を取り、様々な人生を歩みます。
3部作に続く「ダンス・ダンス・ダンス」も同じシリーズで、特に「羊」と「ダンス」は密接な関係を見せています。

僕は、この3部作が大好きなのですが、特に「羊」と「ダンス」については、舞台として札幌が登場するため、特に親しみ深い作品となっています。
「羊をめぐる冒険」で、主人公はある1匹の羊を探して北海道に渡りますが、そのベースキャンプとして札幌のホテルが重要な舞台となります。
ホテルの名前は「いるかホテル」。
そして、主人公の冒険は、この「いるかホテル」から始まっていくのです。
我々は歩き疲れると目についたレストランに入り、生ビールを二杯ずつ飲み、じゃが芋と鮭の料理を食べた。
でたらめにとびこんだわりには料理はなかなかのものだった。
ビールは実に美味しかったし、ホワイト・ソースはさっぱりとしてしかもこくがあった。
村上さんは、本当に札幌の街で飲むビールが好きですよねー。

やれやれ、と僕は声に出して言った。
それからもう一度無駄であることが認識された作業にとりかかり、五時の鐘を聞くと公園のベンチに座って鳩と一緒に玉蜀黍をかじった。
「公園」はもちろん大通公園のことで、主人公も露店の玉蜀黍を買って食べたものと思われます。
まさしく、札幌的風景です。
「鐘」はもしかして時計台の鐘?

札幌の街は広く、うんざりするほど直線的だった。
僕はそれまで直線だけで構成された街を歩き回ることがどれだけ人を摩耗させていくか知らなかった。
僕は確実に摩耗していった。
この、札幌の街の直線に関する文章は、とても興味深い部分です。
確かに、札幌の街は、京都方式と呼ばれる碁盤の目状に構成されており、直線と直線との組み合わせによって街が成り立っています。
でも、それが「人を摩耗させる」と言われると困っちゃいますよねー(笑)

さて、ところで重要な舞台である「いるかホテル」のモデルについては、当時からいろいろと言われていますが、一応もっとも有力な説とされているのが、中島公園に隣接して立つノボテル札幌(元アーサー札幌)です。
まー、村上さんの小説にはモデルがあってないようなものなので、その真贋は定かではありませんけれどね。

モデルというと、最終目的地である「十二滝町」のモデルについても、いろいろな推測を呼びました。
もっともらしく書かれているから、村上さんの小説って深読みしちゃうんですよねー。
いろいろ調べたあげく「あれはウソです」って言われても全然不思議じゃないですから(笑)

まあ、そういう深読みはさておいて、札幌で暮らしながら、この「羊をめぐる冒険」を読むというのは、それなりに幸せな感じがします。
ちょっとだけリアリティを感じられるような気がするというか。
もっとも、実際にはリアリティなんてほとんどないようなものなんですけれど。

羊をめぐる冒険を終えた主人公は、「ダンス・ダンス・ダンス」で再び札幌に舞い戻ってきます。
その辺りのお話は、また次回で☆
by kels | 2007-02-13 23:17 | 旧・札幌日和下駄 | Comments(2)