タグ:村上春樹 ( 74 ) タグの人気記事

ノルウェイの森

b0103470_2075191.jpg

オフィスの仲間たちと、一度だけスキー旅行に出かけたことがある。
就職して1年目の冬だ。
就職して2年目の冬に僕は会社を退職しているから、それが唯一の参加機会だった。
格別人付き合いが良いわけでもなく、同世代の仲間たちがほとんど参加しないスキー旅行になぜか僕は参加をして、同僚たちと一緒に真冬のニセコへと向かった。

ホテルに到着しても、僕はスキーに出かけるわけでもなく、温泉に入ったり、本を読んだりしてのんびり過ごした。
「スキー場まで来て、おかしなやつだな」と、誰かが言った。
「できないなら教えてあげるわ」と、親切な先輩が言った。
僕の故郷は山の中の炭鉱町で、家はスキー場のすぐ真下にあったから、スキーだけは物心付いたときから嫌というほど滑った。
他に、遊ぶべきものが何もない街だったのだ。

みんながスキーに出かけている間、僕は何度も温泉大浴場に入り、何も考えずに、ぼうっととしていた。
何も考えないということが、実に久しぶりだということに、そのとき初めて僕は気づいた。
どうでもいいことをあれこれと考えながらあくせく生きているのが、僕の人生だった。

風呂上がりには、村上春樹の「ノルウェイの森」を読んだ。
あまりにも流行して、誰も彼もが良いと言ったその小説を読むのは、僕にはそれが初めてのことだった。
旅先のホテルで、一人になって読む「ノルウェイの森」は悪くなかった。

夕方、みんなで卓球遊びをして、酒を飲み、夜更けまで麻雀をした。
男も女も雑魚寝の一室。
みんな酔いつぶれた部屋を抜け出して、僕はロビーで小説の続きを読んだ。
寒くなったら、風呂に入れば良かった。

翌日もみんなはスキーに出かけ、僕は相変わらず温泉に入ったり小説を読んだりして、のんびりと過ごした。
1泊2日の旅行の間に、「ノルウェイの森」は読み終えてしまいそうだと思い始めた頃、突然、館内放送が僕の名前を告げた。
ロビーに行くと、女性の先輩が足を骨折したために、救急車で搬送されていくところだった。
仲間たちは、誰も事故に気がつかずに、まだ山の中で滑っているらしかった。
「大丈夫、心配することは何もありませんよ」と、僕は言った。
やがて、僕らは病院で応急処置の終わった彼女を連れて、札幌へと戻った。
「ノルウェイの森」は、もう少しのところで読み終わらなかった。

松葉杖の彼女をマンションの部屋まで送り届けてから、僕は自分のアパートの部屋へと戻った。
一晩留守にしただけですっかりと冷え切った部屋は、気温以上に冷たい気がした。
とりあえず、と僕は思った。
とりあえずはビートルズでも聴こう。
「ノルウェイの森」の乾いたメロディが、チリチリと音を立てながらレコード盤から流れてくるのを確認して、僕は小説の続きを読み始めた。

にほんブログ村 写真ブログ スナップ写真へ
にほんブログ村
↑↑↑↑↑↑
「スナップ写真ランキング」への参加を始めました。1日1回、クリックをお願いします☆
by kels | 2010-12-08 20:17 | Snap Short Stories | Comments(2)

青春の終わり

b0103470_22274391.jpg

人は青春の終わりを、いつ知るのか。

村上春樹の古いエッセイの中に、初めて会った女性に、「あなたは僕の初恋の人に似ている」みたいな話をしたところ、「男の人って、みんなそういうこと言うんですよね」と言われてしまい、あー、僕の青春は終わったんだなと感じた、というエピソードがある。

僕が青春の終わりを感じたのは、20代後半に入ったばかりの頃のことで、仲間達が立て続けに結婚をした一時期があり、みんなの結婚パーティーをやりながら、俺達の青春も終わったんだなあと、リアルに感じた。
ピークは、ある年の7月のことで、僕自身の結婚式を皮切りに、3週連続で仲間達の結婚式が続いた。
呼ばれる方は溜まったもんじゃないよね、本当に。

僕自身も、結婚式の翌日から新婚旅行に出かけて、翌週の仲間の結婚式に合わせて帰ってきた。
新婚旅行の帰りに、そのまま友達の結婚式に出席したのだから、考えてみると、すごい話だ。

考えてみると、あの(自分の)結婚式の日が7月10日だった。
そうか、今日はいわゆる結婚記念日になるのか(笑)

EOS Kiss Digital X / EF50mmF1.8 / clear


にほんブログ村 写真ブログ スナップ写真へ

↑↑↑↑↑↑
「ブログ村」への参加を始めました。1日1回、クリックをお願いします。
by kels | 2010-07-10 22:39 | 日記 | Comments(4)

羊をめぐる冒険

b0103470_2083520.jpg

どういうわけか、パソコンの隣に、村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」の文庫本(それも下巻)が置いてあり、何気なくそれを手に取ってパラパラと読んだ。
やっぱり昔の村上春樹はおもしろいやと思いながら、ページを読み進めるうちに、なんだってこんなに中途半端な読書をしているのだと思い返して、まずは上巻から読まなくてはと、上巻を探しだした。

しかし、「ダンス・ダンス・ダンス」の上巻から読み始めたところで、それはやっぱり中途半端な読書であり、今読むべきものはもっと他にあるような気がした。
そう、毎年必ずこの時期には読んでいるはずの小説。

そんなわけで、僕は「羊をめぐる冒険」の文庫版(上巻)を探しだしてきて、昨夜から読み始め、ようやく下巻の半分程度まで読み進んだ。
小説でいうと、「彼女」は山を下り、「僕」だけが今にも雪が降り始めそうな山の上の牧場に取り残されたあたりだ。
この「今にも雪が降り始めそうな」季節が、毎年この時期に、この小説を読みたくなる理由である。
おまけに「いるかホテル」は札幌市内にある。

この小説を読み終えたら、僕は次に「ダンス・ダンス・ダンス」を読まなくてはならないだろう。
それにしても、昔の貯金を取り崩していくような、この読書スタイルはどうにかならないだろうか。
何度も読み返したいと思えるような「新しい」小説に、もう何年も出会えていないような気がする。

とにかく今は、北海道の羊の物語を読み進めるしかないわけなのだが。


にほんブログ村 写真ブログ スナップ写真へ

↑↑↑↑↑↑
「ブログ村」への参加を始めました。1日1回、クリックをお願いします。
by kels | 2009-11-01 20:19 | 音楽 | Comments(0)

「羊をめぐる冒険」と札幌

b0103470_22222680.jpg

実に久し振りに「羊をめぐる冒険」を読みました。
もちろん、村上春樹さんの初期の名作です。
本当は、「ダンス・ダンス・ダンス」を先に読んだのですが、「ダンス」を読んでいるうちに「羊」が読みたくなってしまって、逆の順番で読んでしまったというわけです。
「羊をめぐる冒険」は、村上さんのデビュー作「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」の続編といわれる作品で、初期の3部作と呼ばれたているものです。
3作品に共通しているのは登場人物で、語り手である主人公、その親友である「鼠」、そして2人の行きつけのバーの店主である「ジェイ」の3人です。
3部作の中で、登場人物達は確実に年を取り、様々な人生を歩みます。
3部作に続く「ダンス・ダンス・ダンス」も同じシリーズで、特に「羊」と「ダンス」は密接な関係を見せています。

僕は、この3部作が大好きなのですが、特に「羊」と「ダンス」については、舞台として札幌が登場するため、特に親しみ深い作品となっています。
「羊をめぐる冒険」で、主人公はある1匹の羊を探して北海道に渡りますが、そのベースキャンプとして札幌のホテルが重要な舞台となります。
ホテルの名前は「いるかホテル」。
そして、主人公の冒険は、この「いるかホテル」から始まっていくのです。
我々は歩き疲れると目についたレストランに入り、生ビールを二杯ずつ飲み、じゃが芋と鮭の料理を食べた。
でたらめにとびこんだわりには料理はなかなかのものだった。
ビールは実に美味しかったし、ホワイト・ソースはさっぱりとしてしかもこくがあった。
村上さんは、本当に札幌の街で飲むビールが好きですよねー。

やれやれ、と僕は声に出して言った。
それからもう一度無駄であることが認識された作業にとりかかり、五時の鐘を聞くと公園のベンチに座って鳩と一緒に玉蜀黍をかじった。
「公園」はもちろん大通公園のことで、主人公も露店の玉蜀黍を買って食べたものと思われます。
まさしく、札幌的風景です。
「鐘」はもしかして時計台の鐘?

札幌の街は広く、うんざりするほど直線的だった。
僕はそれまで直線だけで構成された街を歩き回ることがどれだけ人を摩耗させていくか知らなかった。
僕は確実に摩耗していった。
この、札幌の街の直線に関する文章は、とても興味深い部分です。
確かに、札幌の街は、京都方式と呼ばれる碁盤の目状に構成されており、直線と直線との組み合わせによって街が成り立っています。
でも、それが「人を摩耗させる」と言われると困っちゃいますよねー(笑)

さて、ところで重要な舞台である「いるかホテル」のモデルについては、当時からいろいろと言われていますが、一応もっとも有力な説とされているのが、中島公園に隣接して立つノボテル札幌(元アーサー札幌)です。
まー、村上さんの小説にはモデルがあってないようなものなので、その真贋は定かではありませんけれどね。

モデルというと、最終目的地である「十二滝町」のモデルについても、いろいろな推測を呼びました。
もっともらしく書かれているから、村上さんの小説って深読みしちゃうんですよねー。
いろいろ調べたあげく「あれはウソです」って言われても全然不思議じゃないですから(笑)

まあ、そういう深読みはさておいて、札幌で暮らしながら、この「羊をめぐる冒険」を読むというのは、それなりに幸せな感じがします。
ちょっとだけリアリティを感じられるような気がするというか。
もっとも、実際にはリアリティなんてほとんどないようなものなんですけれど。

羊をめぐる冒険を終えた主人公は、「ダンス・ダンス・ダンス」で再び札幌に舞い戻ってきます。
その辺りのお話は、また次回で☆
by kels | 2007-02-13 23:17 | 文学 | Comments(2)