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村上春樹の小説の中に、1980年代の札幌の記憶が描かれている

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僕は札幌の街につくと、ぶらぶらいるかホテルまで歩いてみることにした。
風のない穏やかな午後だったし、荷物はショルダー・バッグひとつだけだった。
街の方々に汚れた雪がうずたかく積み上げられていた。

空気はぴりっと張り詰めていて、人々は足下に注意を払いながら簡潔に歩を運んでいた。
女子高生はみんな頬を赤く染めて、勢いよく白い息を空中に吐き出していた。
その上に字が書けそうなくらいぽっかりとした白い息だった。

僕はそんな街の風景を眺めながら、のんびりと歩いた。
札幌に来たのは四年半ぶりだつたが、それはずいぶん久し振りに見る風景のように感じられた。

「ダンス・ダンス・ダンス」村上春樹(1988年)

村上春樹の小説の中に、1980年代の札幌の記憶が描かれている。
札幌の人間として、僕は素直にうれしいと思う。
「いるかホテル」は、未だに見つからないけれども。


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by kels | 2017-02-19 05:58 | 文学 | Comments(0)

僕が聴きたかったのは、「Don't Think Twice, It's All Right 」だった

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「これ、ボブ・ディランでしょ?」
「そう」と私は言った。
ボブ・ディランは『ポジィティブ・フォース・ストリート』を唄っていた。
二十年経っても良い唄というのは良い唄なのだ。
「ボブ・ディランって少し聴くとすぐにわかるんです」と彼女は言った。
「ハーモニカがスティーヴィー・ワンダーより下手だから?」
彼女は笑った。
彼女を笑わせるのはとても楽しかった。
私にだってまだ女の子を笑わせることはできるのだ。
「そうじゃなくて声がとくべつなの」と彼女は言った。
「まるで小さな女の子が窓に立って雨ふりをじっと見つめているような声なんです」
「良い表現だ」と私は言った。
良い表現だった。
私はボブ・ディランに関する本を何冊か読んだが、それほど適切な表現に出会ったことは一度もない。

「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」村上春樹(1985年)

ここ二週間、ボブ・ディランばかり聴いて過ごした。
デビューから最初の3枚の古いボブ・ディラン。
僕は古い時代のボブ・ディランが好きなのだ。

それでも、僕がボブ・ディランをこんなに聴くのは実に久しぶりのことだった。
仕事で疲れているから、こんなに優しい音楽ばかり聴きたくなるのだろうか。
朝目覚めた瞬間から夜眠る直前まで、僕はボブ・ディランのギターと声に慰められていた。

「相変わらず古くさい音楽聴いているな」と、みんなが笑った。
風に吹かれて、時代は変わる、激しい雨。
古くさい歌だっていうことは、もちろん僕も分かっていた。

僕が聴きたかったのは、「Don't Think Twice, It's All Right 」だった。
考えてみると十代の頃から僕は、何かあるたびにこの曲を聴いて、この曲に慰められていたような気がする。
時代は変わっても、僕はあまり変わらなかったらしい。

そんなボブ・ディランが、ある日を境に突然大ブレイクした。
「ボブ・ディランって、今聴くと新鮮だよね」と、みんなが言った。
僕は心の中で「ふざけんなよ」って本気で思った。

「くよくよするなよ、大丈夫だよ」と、ボブ・ディランが唄っていた。
by kels | 2016-10-15 06:44 | 音楽 | Comments(2)

北海道の海はビーチなんていうような格好いいものではなく、ただの砂浜である

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カリフォルニアの海だ。
カリフォルニア、百貨店のような州だ。
大抵のものは揃っているが、最良のものはない。

「リトル・シスター」レイモンド・チャンドラー/訳・村上春樹(1949年)

さっぽろ夏まつりも始まって、いよいよ本格的な夏がやってきた。
時間を見つけて海にでも行きたいところだ。
もっとも、北海道の海は、たとえ真夏であっても油断はできない。

北海道の海はビーチなんていうような格好いいものではなく、ただの砂浜である。
何しろ、海水の気温は低いから、寒くてたまらないという海水浴も少なくない。
真夏日が何日か続いたあたりで、泳ぐにちょうどよい水温になるような気がする。

それでも夏になれば海に行きたいのは、北海道の人間も一緒だ。
いっそ、北欧のように、湖畔にサウナ小屋でも建てて湖で泳ぐべきかもしれない。
北海道の海は、漁師のための海だ。


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by kels | 2016-07-23 06:39 | 夏のこと | Comments(0)

死にそうなくらいに退屈で、何の予定もない新しい明日が来ることさえ恐ろしく感じられた

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一夏中かけて、僕と鼠はまるで何かに取り憑かれたように25メートル・プール一杯分ばかりのビールを飲み干し、「ジェイズ・バー」の床いっぱいに5センチの厚さにピーナツの殻をまきちらした。
そしてそれは、そうでもしなければ生き残れないくらい退屈な夏であった。

「風の歌を聴け」村上春樹(1979年)

贅沢な夏の過ごし方と言えば、やはり、何もすることがない退屈な夏というやつだろう。
あれこれと予定を詰めこむ夏は、決して贅沢な時間の過ごし方だとは思わない。
やりたいことがいっぱいの夏だからこそ、時間は余裕を持って使いたい。

ビールでも飲み続けなければ生き残れないくらい退屈な夏。
考えてみると、これほど贅沢な夏というものはないと、僕は思う。
そして、そんな夏は当分の間、自分に訪れることはないだろう。

思えば、学生の頃、時間というものは無限に存在しているのだと思っていた。
退屈な夏休みの隙間を埋めるように、必死で僕たちは遊び回っていた。
そうでもしなければ生き残れないと、誰もが信じていたのだ。

大人になったとき、自分に与えられた時間の少なさに、僕たちは愕然としたものだ。
そして、みんな少しずつ、数少ない時間の有効な使い方というものを身につけていった。
それこそが、僕たちの夏にとっての「大人になる」ということだった。

今、僕は、何もしない時間を手に入れたいと思う。
死にそうなくらいに退屈で、何の予定もない新しい明日が来ることさえ恐ろしく感じられた、あの頃の夏のように。


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by kels | 2016-07-10 20:47 | 夏のこと | Comments(0)

村上春樹の「風の歌を聴け」は、僕にとって、まさしく夏の定番ノベルである

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僕はビールとコンビーフのサンドウィッチを注文してから、本を取り出し、ゆっくりと鼠を待つことにした。
10分ばかり後で、グレープフルーツのような乳房をつけ派手なワンピースを着た30歳ばかりの女が店に入ってきて僕のひとつ隣に座り、僕がやったのと同じように店の中をぐるりと見まわしてからギムレットを注文した。

「風の歌を聴け」村上春樹(1979年)

夏が来るたびに読み返している小説というのがある。
村上春樹の「風の歌を聴け」は、僕にとっては、まさしく夏の定番ノベルである。
どれだけ読み返したか、今では分からなくなってしまった。

物語はシンプルで、文章は平易、文学作品としての奥行きはない。
そして、それが新しい時代の都市生活者そのものだったような気がする。
論じることさえ都会的ではない時代だった。

どこにでもありそうでいて、どこにもない洗練された暮らし。
大切なものは、そんな青春がきっとどこかにあるだろうと感じさせる、小さな希望である。
みんな同じような希望を抱いて、そして今年もまた、あの頃と同じような夏を迎えている。


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by kels | 2016-07-10 07:45 | 文学 | Comments(0)

札幌のカフェは、午前7時に開店するスターバックスコーヒーに始まる

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話せば長いことだが、僕は21歳になる。
まだ充分に若くはあるが、以前ほど若くはない。
もしそれが気に入らなければ、日曜の朝にエンパイア・ステート・ビルの屋上から飛び下りる以外に手はない。

「風の歌を聴け」村上春樹(1979年)

日曜の朝がやってきた。
僕は投票をするために、近所の小学校まで出かけようと考えている。
参議院選挙2016。

投票を終えたら、どこかの喫茶店で朝のコーヒーでも飲もうか。
だけど、こんな早朝にコーヒーを飲ませる店なんて、札幌にはない。
札幌のカフェは、午前7時に開店するスターバックスコーヒーに始まるのだ。

日常、僕は午前7時には仕事を開始している。
だから、朝のコーヒーをスターバックスコーヒーで飲むことはできない。
僕たちはお互いに午前7時に動き始めている。

どうしてもスターバックスコーヒーで一日を始めたいときは、仕事の時間を少し遅らせる。
午前7時のスターバックスコーヒーには、多くの客が並んでいる。
スターバックスコーヒーで始まる一日というものは、確かに存在しているのだ。


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by kels | 2016-07-10 06:12 | カフェ・喫茶店 | Comments(0)

夏の夜っていうのは、何だか特別な感じがする

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僕は髭を剃り、シャワーを浴びてから、外に出て朝の街を散歩し、それからまたダンキン・ドーナツに入ってドーナツを食べ、コーヒーを二杯飲んだ。
街は出勤する人々で溢れていた。
そういう光景を眺めていると、僕もまた仕事を始めなくてはならないという気持ちになった。

「ダンス・ダンス・ダンス」村上春樹(1988年)

夏の夜っていうのは、何だか特別な感じがする。
ただ、夏の夜というだけなのに。


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by kels | 2016-07-10 05:57 | 随想 | Comments(0)

夏はこれから始まるんだし、僕は僕の夏を僕なりに過ごそう。

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夏だ、と僕は思った。
「これからどうするつもりなの?」とユキが訊いた。

「ダンス・ダンス・ダンス」村上春樹(1988年)

夕方、すすきのに出かけて食事をしてきた。
味覚園すすきの本店。
すすきのでも老舗の焼き肉屋になるだろう。

開け放した戸口から気持ちの良い夕風が入ってくる。
七輪の焼き肉をつつきながら、僕は夏を感じた。
おそらく、今年初めての。

考えてみると、ここ数週間はまったく余裕がなかった。
部屋で過ごす時間がほとんどなくて、仕事以外のことを考える暇もなかった。
夏が近づいていることにさえ、僕は気が付かなかったのかもしれない。

でも、大丈夫。
夏はこれから始まるんだし、僕は僕の夏を僕なりに過ごそう。


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by kels | 2016-07-09 21:08 | 日記 | Comments(0)

今年も北大のお祭りを観ることができて、僕はほっとしている

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「実はシャンパンがあるんだよ」と、彼は真剣な顔つきで言った。
「フランスから持って帰ってきた上物なんだけど、飲まないか?」
「どこかの女の子用なんだろ?」
彼は冷えたシャンパンの瓶と新しいグラスをふたつ、テーブルの上に置いた。
「知らないのかい?」と彼は言った。
「シャンパンには用途なんてない。栓を抜くべき時があるだけさ」

「ニューヨーク炭鉱の悲劇」村上春樹(1981年)

日曜日になって、ようやく晴れたので、北大祭を観に出かけた。
週末晴れなければ、恒例の祭りを観ることができなかったかもしれない。
昨日の土曜日とは、打って変わったような青空だ。

実は、木曜日に仕事で北大まで出かけたときに、一通りの露店は観て歩いた。
木曜日の札幌も気温は低くて、屋外で露店を営業するには悲しい天候だった。
もちろん、学生には、そんなことは大きな問題ではなかったが。

「この時期は、毎年雨が降って気温が低いのです」と、大学教授は笑った。
「それでも、毎年この時期に学園祭を続けているのですよ」
新緑が気持ち良い季節ですから、と僕は答えた。

相変わらず、今年も寒い学園祭だった。
だけど、覚悟していたせいか、今日の寒さはそれほど悲惨なものではなかった。
オーチバルのパーカーを羽織って、ちょうど良いくらいの寒さだった。

寒いけれど、天候は最高の快晴だったから、人出も最高だった。
まっすぐに歩くこともできないくらいに、露店のまん中の通りは混雑している。
はっきり言って、写真なんか撮っている場合ではなかったくらいだ。

それでも、今年も北大のお祭りを観ることができて、僕はほっとしている。
札幌の季節のメルクマークとして、それはとても大切な存在だからだ。
6月の、新緑の、札幌の、学園祭。


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by kels | 2016-06-05 19:29 | 夏のこと | Comments(0)

北海道文化放送で、「橋本奈々未の恋する文学」の放送が始まった

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「旭川に行くのよ。ねえ、旭川よ!」と彼女は言った。
「音大のときの仲の良かった友達が、旭川で音楽教室をやっててね、
手伝わないかって、二、三年前から誘われてたんだけど、
寒いところ行くのが嫌だからって断ってたの。
だって、そうでしょ。やっと自由の身になって、行き先が旭川じゃ、ちょっと浮かばれないわよ。
あそこ、なんだか作りそこねた落とし穴みたいなところじゃない?」

「ノルウェイの森」村上春樹(1987年)

北海道文化放送で、「橋本奈々未の恋する文学」の放送が始まった。
http://uhb.jp/program/koisurubungaku/

第1回目の紹介作品は、村上春樹の「ノルウェイの森」。
旭川西高校出身の橋本奈々未が、作品の朗読を交えて紹介していく。
小説の中にわずかに登場する旭川市を舞台にしているあたりがおもしろい。

村上春樹の作品には、意外と北海道の実在の都市が登場している。
代表作「ノルウェイの森」では、登場人物の会話の中で、旭川に触れられている。
いわゆる「なんだか作りそこねた落とし穴みたいなところ」だ。

昔の話になってしまうが、僕も旭川では数年間を暮らしたことがある。
人口規模では、札幌市に次ぐ北海道第二の都市であり、地方自治法に定める中核市でもある。
もっとも、実際に暮らしてみれば、北海道の地方都市らしい街だということがわかるだろう。

札幌のように人を集めようとしたけれど、人口は簡単には増えない。
一生懸命に落とし穴を掘っても、まるで誰も落ちてはくれないように。
街の人たちは、そんな「作りそこねた落とし穴」の中で、静かで平和な暮らしを守り続けている。

そんな旭川の街を、橋本奈々未は、ちょうどよく暮らしやすい街だと感想を述べている。
故郷の街を「作りそこねた落とし穴みたいなところ」と表現されて、うれしい者はいない。
彼女自身、きっと時間をかけて、この作品を自分の中で消化していったのではないだろうか。

若い世代が文学について語る場面っていいなあと思う。

ところで、番組を観ていて驚いたのは、「ノルウェイの森」が発表されたのは、今から30年近くも昔のことだったという事実。
作品の舞台は、1970年前後だから、実に今から50年近くも昔のことということになる。
さらに、そんな古さを、今もって感じさせないというところに、この作品の本当の凄さがあるのかもしれない。


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by kels | 2016-02-21 18:25 | 文学 | Comments(0)