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002 カバシマヤ

僕が初めてカバシマヤを訪れたのは、北海道を1年に1度か2度襲うことが知られている「ドカ雪」が札幌の町に降り、やり場のない雪の処理に誰もが頭を悩まし、札幌中の道という道が雪のために渋滞していた、そんな真冬のある日のことだった。
その頃、カバシマヤは現在の4プラではなく、東屯田通りと呼ばれる、その名のとおりかつて屯田兵によって開拓されたエリアの南外れに小さな店を出していた。
冬ともなると、自動車の置き場にも困るような狭い道に面していて、僕は店の脇の小路に間に合わせ程度に作られた駐車スペースに自動車を無理矢理止めた。

店内にオーナーは不在で、おそろしく若い女の子が一人、店番をしていた。
まだ、高校を卒業したばかりかと思われるようなその女性は、暗い店の奥で静かに微笑んだ。
僕がこの店を訪れてみようと思ったのは、ある個人のホームページで、この店についての簡単な紹介が掲載されているのを見たからだった。
噂通りに、店内には昭和初期から中期にかけての食器やインテリア、時計なんかがびっしりと並べられていて、レトロな照明の光に照らされて、その空間はまるで昭和時代に逆行したかのようなムードを生み出していた。
大雪が降ったばかりということもあり、町はとても静かで、まして昭和の匂いを漂わせたカバシマヤの店内は、物音一つ聞こえない状態だった。

僕が物珍しげにガラス食器を眺めていると、店の女性は、「このお店は、オーナーのコレクションを商品にしているのです」といったようなことを説明した。
カバシマヤは、いわゆるコレクター上がりの店だったから、商品の状態は極めて良く、コレクターの眼鏡を通して選び抜かれた品物が並ぶというのが原則だった。
そのうえ、オーナーはとても潔癖な人だったこともあり、商品として並んでいるものの多くは「デッドストック」と呼ばれている未使用品がほとんどだった。
淫靡な雰囲気に飲み込まれたように、僕はたちまちその店の虜になったような気がする。
気泡だらけの小さな金魚鉢とガラスのコップを買って、僕は初めてカバシマヤの客となった。
店を出た後も、昭和の暗い光の中に静かにたたずんでいる女性のことが思い出された。

次に、カバシマヤを訪れたとき、僕はオーナーと初めての挨拶をした。
初対面のときから、オーナーはとても饒舌で、コレクターらしく商品についての知識や思い出話なんかを聞かせてくれた。
この日、僕が買ったものは、金魚鉢の中に飾られていた古いビー玉と古いおはじきで、僕のビー玉コレクションは、このときに始まったものだった。
というよりも、この日カバシマヤで買ったビー玉の美しさに、僕は取り憑かれてしまったという方が正しいかもしれない。

冬が終わる頃、僕はカバシマヤのすぐ近くへ引っ越したこともあり、東屯田通りのこの店へは、その後も時々顔を出すようになった。
だから、僕にとってカバシマヤといえば、今でも、東屯田通で昭和の光を漏らしていたあの頃を思い出すし、なにげなくその通りを歩けば、かつてそこにあった昭和の光を思い出してしまう。

その後、カバシマヤは都心のテナント・ショップ「プリヴィ」に2号店を出店し、さらに、東屯田通り店は現在の南3条にある路面店へと移転した。
プリヴィの閉店によって、店舗は路面店だけとなり、その路面店も現在は4プラへ移転してしまったけれど、都心で生まれ変わったカバシマヤは、あの頃よりずっとプロのショップらしい顔になって活動している。

■住所     札幌市中央区南1条西4丁目 4丁目プラザ7階
■営業時間   4プラ定休日と同じ
■定休日    4プラ定休日と同じ
■ホームページ http://www.kabashimaya.com/


by kels | 2011-05-01 06:50 | 古物・雑貨 | Comments(0)
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