閉店間際の「ろいず小熊邸」に、客はいなかった。 入り口の女の子に「まだ、いいですか」と、わざわざ確認したくらいだ。 もちろん、ラストオーダーには、まだ少し余裕があった。 「だって、土曜日の夜だぜ」と、僕は言った。 彼女は知らない顔をして、ファッション雑誌の最新号を睨み付けている。 とにかく広い店内で、その夜の客は、僕と彼女の二人だけだったのだ。 コーヒーとケーキを注文すると、他にすることは何もなかった。 ただ店内を、古い住宅を移築したというモダンな店内を、ゆっくりと眺めるだけだ。 考えてみると、こんなふうに、小熊邸の店内をジロジロと観るなんて、初めてのことかもしれない。 「知ってるわよ」と、彼女は言った。 「あなたの好きな喫茶店」 「空いている喫茶店だよ」と、僕は言った。 やがて、コーヒーとケーキが運ばれてきて、僕らはケーキを食べながらコーヒーを飲んだ。 ケーキは一つを二人で分ける。 彼女のケーキの、ほんの欠片があれば、僕はそれで満足できたのだ。 コーヒーを飲みながら、二人とも一言も口を聞かなかった。 ただ雑誌をめくり、ケーキを食べて、コーヒーを飲んだ。 それだけで、土曜日の夜は、しっかりと時を刻み続けていく。 「そろそろ行こうか」と、僕は言った。 気が付くと、表の看板の灯は消えていて、店内には静寂だけが広がっている。 店の一日が、今、終わろうとしているのだ。 まるで世界中に二人だけしかいない土曜日みたいだと、僕は思った。 にほんブログ村 ↑↑↑↑↑ 「にほんブログ村」に参加をしてみました。 1日1回のクリックをお願いいたします!
by kels
| 2015-04-13 19:22
| カフェ・喫茶店
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