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この店の珈琲一杯に、どれだけ救われてきたことだろうと、彼は考えてみる

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円山の住宅街の中に小さな喫茶店がある。
あまり自動車の入って行かない細い路地に面して、その喫茶店はあった。
誰かが教えてくれなければ喫茶店だとは気付かないような、普通の民家を改装したお店だった。

昔は「隠れ家みたいな喫茶店だ」と言われた。
その隠れ家みたいなところが隠れた話題となり、いつの間にか札幌屈指の人気カフェとなった。
今では隠れ家どころか、入店待ちの行列ができるほどになっている。

隠れ家の頃を知る者にとって、今の賑わいぶりは決して楽しいものではないだろう。
人知れず本格的な珈琲を飲むことのできる素晴らしいロケーションの喫茶店があることを、彼らはみな自分だけの小さな誇りにしていたからだ。
しかし、それは、小さな店が発展していくときには常連客の誰もが感じる寂しさを、この小さな喫茶店も確かに持っていたに過ぎない。

もっとも、店に入って珈琲を飲めば、その満足感はあの頃と変わるものではないと、彼は思っている。
特に席数が増えたわけでもなく、ガラの悪い客ばかりになってしまったわけでもない。
店内にはあの頃と同じように気持ちの良い音楽が流れ、女性客の軽やかなお喋りが響いていた。

この店の珈琲一杯に、どれだけ救われてきたことだろうと、彼は考えてみる。
仕事に行き詰ったとき、彼は決まってこの店を訪れては、この店自慢の深煎り珈琲を飲んだ。
そして、珈琲一杯を飲む時間の間、彼は、自分の仕事について考え続けた。

答えは大抵の場合、彼自身の中にあった。
一杯の深煎りの珈琲が、彼を自分自身と向かい合わせていたのだろう。
珈琲を飲み干して唯一の結論を得たとき、彼はいつでも少し肩の荷が軽くなったような気がしていた。

今も彼は、そうしてこの小さな喫茶店へと通い続けている。
この店の珈琲を飲むことだけを目的に海を越えてやって来る旅人が増えた今も、彼はあの頃と何も変わらない。
本当の珈琲は嘘をつかないと、彼は今もって固く信じ続けている。


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by kels | 2014-06-16 19:28 | カフェ・喫茶店 | Comments(0)
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