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「リラ冷え」という言葉の語源(発祥)について

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毎年、この季節になると、必ずこの手の話題になる、というものがある。
例えば、「リラ冷え」という言葉の語源について。
こういうネタは、話題そのものが風物詩みたいなものだから、今年もちょっと触れてみよう。

「リラ冷え」という言葉が、一般に知られるようになったのは、渡辺淳一の小説「リラ冷えの街」からである。
新潮文庫版「リラ冷えの街」の解説に次のような文章がある。

この作品は、北海道新聞社が試みた日曜版連載小説の第一弾として、1970年の7月から翌年の1月までに発表された。
日曜版の一面の3分の2のスペースをさき、1回に20枚を載せるという、新聞小説の型を破った企画であったが、その第1回として「リラ冷えの街」は成功だった。
「リラ冷え」という新しい言葉は、不自然でなく札幌の街に定着した。
今では多くの人が、それが渡辺淳一の造語であることも知らずに使用しているし、俳句の季語にもなってしまったようだ。

「リラ冷えの街」解説より、川辺為三(1978年)

解説の中に「渡辺淳一の造語」とあるのは、もちろん誤りである。

この小説について、筆者の渡辺淳一は、「リラ冷えのころ」というエッセイの中で、この小説のタイトルについて、次のように綴っている。

この題名の「リラ冷え」というのは、日本語の正規の言葉としてはないはずである。
たまたま辻井さんの本の中に、榛谷美枝子さんの句が紹介されていて、そのなかに、

 リラ冷えや十字架の墓ひとところ
 リラ冷えや睡眠剤はまだきいて

の句があった。
私はこのあとの句がとくに気に入ってる。

「北国通信」所収『リラ冷えのころ』渡辺淳一(1981年)

ここに登場する辻井達一さんは北大農学部の先生で、北大植物園の管理をしていた人らしい。
この人の著作に「ライラック」という本があり、その中で「リラ冷え」について紹介されている。

日本では最近出版された榛谷美枝子さんの句集(自費出版のため、一般には出されていない)から。

 リラ咲くと聞き札幌へ途中下車
 ビール飲む約束はあとリラを見に

とやはり北大植物園へ、だと思う。

 リラ冷えやすぐに甘えてこの仔犬
 リラ冷えや十字架の墓ひとところ
 リラ冷えや美術講演パリのこと
 リラ冷えや睡眠剤はまだきいて

のように、その頃の札幌は、まだ時にうすら寒い日が見舞う。

「ライラック」辻井達一(1970年)

整理すると、渡辺淳一は、出版されたばかりであった、この「ライラック」という本の中で「リラ冷え」という言葉を見つけて、それを小説のタイトルとして使用したということになる。

自費出版の句集の中から「リラ冷え」の語句を拾い出したのは、やはり、ライラックの研究者であった辻井だからこその技術だったのかもしれない。
しかし、辻井は本書の中では「リラ冷え」という言葉そのものには、特にコメントを残しておらず、この言葉に敏感に反応した渡辺淳一は、やはり小説家としてのセンスを持っていたということなのだろう。

「リラ冷え」という言葉は、俳人であった榛谷美枝子の造語に違いないが、そのエッセンスを上手に汲み取って季節感溢れる小説に仕上げ、これを社会的に定着させたという点では、やはり、渡辺淳一の功績は大きいに違いない。


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by kels | 2013-05-25 20:56 | 旧・札幌日和下駄 | Comments(2)
Commented by サラリーマンレポート at 2013-05-26 11:07 x
リラ冷え、僅か4文字で札幌の街の雰囲気を表しています。言葉の力は凄いです。
関東では桜の季節に言う、花冷えが同じ雰囲気を表しているのかもしれません。桜冷えとは表現しないところがミソでしょうか。
サクラビエと言わないかわりに、旬のサクラエビを食べます。
Commented by kels at 2013-05-26 23:36
サラリーマンレポートさん、こんにちは。
日本では「花」というだけで「桜」を意味するそうですが、「桜冷え」じゃ、やっぱり、しまりませんよね~。
「花冷え」って、やっぱりいい言葉だと思います。
桜海老とか桜鯛とか、春らしくて美味しい食べ物があって、うらやましいです(笑)
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