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彼や彼女が乗り越えなければならないもの

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札幌の都心からほど近い山の中腹に、そのカフェはあった。
古民家をリノベーションした落ち着いた雰囲気が人気の店だった。
夜遅くまで営業しているため、特に、夜カフェとして人気が高いらしい。
週末の夜などは、満席で入店できないことも珍しくなかった。

木曜日の夕方、思わず時間が空いたので、久しぶりに山の上の古民家カフェを訪ねた。
夕食の時間帯だったが、店内に客はなく、その時間帯としては僕たちが最初の客となったらしい。
賑わっている様子しか知らなかったので、その静かな店内は、いやに新鮮な感じがした。

奥のソファ席に座って、紅茶とケーキをオーダーした。
カフェ業界の雑誌を読むともなくパラパラとめくる。
スピーカーからは、懐かしいEarth, Wind & Fireが流れていた。

のんびりと紅茶を飲んでいるうちに、ようやく次の客がやってきた。
特に、顔を上げる必要もないので、黙って雑誌を読んでいると、新しい客は窓際のカウンター席に座ったらしい。
衝立があって様子はうかがえないが、距離が近いので話し声は聞こえてくる。

仕事で苦労しているらしい女の子のグチを、男の子は黙って聴いていた。
社会に出て働いていれば、どんな職場にだって嫌なことは転がっている。
問題は、それをどう受け止めて、どう受け流し、どう乗り越えるかなのだ。
新社会人らしい彼女が、そのことを理解できるまでには、もう少し時間が必要なのかもしれない。

そんなことを考えていたら、突然、男の子が強い口調で言った。
「希望する仕事に就けない人だって、たくさんいるんだ」
決して大きな声ではないけれど、力強い毅然とした声だった。
「お前は、自分がどれだけ恵まれているか、分かってるのか?」

スピーカーは、フィリップ・ベイリーとフィル・コリンズの「Easy Lover」を流していた。
1985年のヒットナンバー。
春にはNTTやJTが誕生し、秋には阪神タイガースが日本一になっていた。
彼も彼女も、もちろんそんな昔話は知らない。

「望んでいた会社に入社できたお前は、やっぱり幸せだと思う」
僕は、彼が唇を噛みしめているのではないかと思った。
そして、彼の隣の席では、彼女もまた、小さな唇を噛みしめているのだろう。
誰もが、また、明日を生き抜かなければならないのだ。

静まり返る店を、僕らはそっと出た。
駐車場に泊っていた帯広ナンバーの自動車を見ながら、僕は、頑張ってほしいと思った。
彼にも彼女にも。

僕にもそんな時代があったよ。
そうやって声をかけることは簡単だったかもしれない。
けれども、彼や彼女が乗り越えなければならないものは、本当は、彼自身や彼女自身であったはずだ。
そして、そのことを彼らは、いつか必ず自分自身で気が付かなければならない。
いつかの僕がそうであったように。


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by kels | 2012-10-18 23:25 | 旧・札幌日和下駄 | Comments(2)
Commented by wonderfullifewith at 2012-10-20 17:55
女性の愚痴に対して、理論的に対応してはいけない。
そんなことが書かれている本を読みました。

「ふーん、そうだよね。大変だよね」が正解だとか(笑)。
まぁ生きていれば色々ありますね。
Commented by kels at 2012-10-21 06:59
wonderfullifewithさん、こんにちは。
分かります、それ(笑)
自分自身、あまり真剣に対応したことがないような気がします~。
もっと誠実にならなくちゃダメですね~☆
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