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コーヒープレス

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1980年代の後半に、コーヒープレスが流行したことがある。
もっとも、そのときは紅茶を淹れるための器具として、それは紹介され、コーヒーを淹れるには不適当なものだと言われた。
「あいつの誕生日にと思って」と、彼は言った。
大学に入って、初めてできた彼女の誕生日に、彼は当時まだ高かったコーヒープレスを買った。

彼女は、彼がアルバイトをしていたコンビニのお客さんだった。
毎日、少しずつ会話をしているうちに、いつの間にか一緒に飲みに行くような関係になっていたらしい。
気がつけば、彼の会話の中には、いつでも彼女の話が混じるようになっていた。
年上の彼女ができたことを、彼はとても喜んでいた。
初めてのときのことを、彼は目を輝かせながら、僕に告白した。
「あいつなしじゃいられないと思う」

彼女が彼の元を去ったのは、彼女の誕生日から2日経った日のことだった。
彼女はきっと、ずいぶん前からそのことを心に決めていたのだろう。
新しいコーヒープレスだけが彼女の元へと渡り、彼はまたひとりきりになった。
「あいつ、オレのことが嫌いになったのかな」
力なく呟く彼の肩を、僕は叩いた。
毎日が希望と失望の連続だったあの時代が、実は貴重な日々だったのだということを、僕らはずっと後になってから知った。

ところで、あのコーヒープレスは流行が去って一時期姿を消したけれど、人気のコーヒー器具メーカーのPRなどで、近年再び注目を集めている。
そして、それは紅茶ではなくコーヒーを淹れるための器具として。
十分なジャンピングには不向きであるということで、紅茶用としては衰退したプレスだったが、コーヒーの味わいを十分に引き出すにはぴったりだったみたいである。

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by kels | 2010-12-11 22:38 | 旧・札幌日和下駄 | Comments(0)
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