僕と祖母は手をつなぎながら、碑難所である公民館のような施設まで歩いた。

b0103470_6395073.jpg

毎日、雨降りが続いている。
故郷の街では避難勧告が出されているくらいだ。
何十年ぶりだろう、こんなひどい雨というやつは。

そのとき、僕は夏休みを利用して祖母の家に泊まり込んでいた。
北海道にもひどい台風が来た年のことだ。
何をすることもなく、僕はただ窓の外の景色をぼんやり眺めていた。

住宅街の脇を小さな川が流れていた。
祖母の家は、その川から随分離れた内側にあった。
川まで数分歩かなければならないほどだ。

その午後、川が氾濫して水が溢れた。
川の水は最初遠くの住宅を浸水していたが、少しずつ祖母の家まで近づいていた。
川の水が寄せてきる様子を、僕はただじっと眺めていた。

近所の人たちは大騒ぎをしながら集まってきて、一階にある家具やら畳やらを2階に上げた。
今や避難勧告が出されていた。
流されないように重い荷物を背負った方がいい、と誰かが言った。

僕は布団を担いで、祖母と一緒に家を出た。
水は子どもの太股くらいまで達していた。
僕と祖母は手をつなぎながら、碑難所である公民館のような施設まで歩いた。

碑難所には、既に多くの住民が集まっていた。
お握りが配給されて、僕らは川の水が引くのを待った。
国道が決壊していて自動車も通れないという噂が広まっていた。

僕の父が迎えに来たのは、その夜のことだ。
半壊していた国道を、担当者の人の誘導で通してもらえたらしい。
おおらかな時代で、おおらかな街だったのだろう。

あれから長い時間が経ち、祖母は亡くなり、祖母の家も人出に渡った。
そして今年、久しぶりに避難勧告が出ている。
夏の終わりの、こんな季節だった。


にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 札幌情報へ
にほんブログ村
↑↑↑↑↑
「にほんブログ村」に参加をしてみました。
1日1回のクリックをお願いいたします!
# by kels | 2016-08-21 06:59 | 随想 | Trackback | Comments(1)

いろいろな人たちのいろいろな思いを集めて、盆踊りの灯りが消えた。

b0103470_6271595.jpg

盆踊りが終わったら、札幌の短い夏も終わり。
暑いとか寒いとかじゃなくて、そんな気持ちになってしまう。
札幌の夏と秋とを分けるものが、きっとお盆というやつなのだ。

大通公園の盆踊りも静かに終わった。
前半天気が良かった代わりに、後半は毎日雨降りだった。
さっぽろ夏まつりの最終日は、なぜか雨になるらしい。

いろいろな人たちのいろいろな思いを集めて、盆踊りの灯りが消えた。


にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 札幌情報へ
にほんブログ村
↑↑↑↑↑
「にほんブログ村」に参加をしてみました。
1日1回のクリックをお願いいたします!
# by kels | 2016-08-21 06:32 | 夏のこと | Trackback | Comments(0)

たべるとくらしの研究所。雨の日に訪れたいと思えるカフェだ。

b0103470_20131542.jpg

雨が降っていた。
古い民家を改装したカフェの店内には、雨の音が響いている。
雨は少しずつ強くなっていった。

雨の日のカフェが、僕は好きだ。
特に、こんなふうに古い建物の古い窓辺の席。
古い窓のすぐ向こう側に雨がある。

いつもは賑わう人気の店も、こんな雨の日にはとても静か。
僕は窓ガラス越しに雨と向き合っている。
雨と向き合いながら、僕はきっと自分自身と向き合っているのだろう。

たべるとくらしの研究所。
雨の日に訪れたいと思えるカフェだ。

にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 札幌情報へ
にほんブログ村
↑↑↑↑↑
「にほんブログ村」に参加をしてみました。
1日1回のクリックをお願いいたします!
# by kels | 2016-08-20 20:20 | カフェ・喫茶店 | Trackback | Comments(1)

だけど、狸小路の狸がぶら下がっているのは、夏の間だけだ

b0103470_20542486.jpg

札幌の狸小路のアーケードには、大きな狸がぶら下がっているらしい。
そんな噂を聞いて、この街を訪れる旅人は多い。
どうしてみんな狸が好きなのだろうと、僕は思う。

だけど、狸小路の狸がぶら下がっているのは、夏の間だけだ。
夏の終わりとともに、狸は必ずどこかへ消えちまうんだから。
夏の終わりの札幌の街から、旅人が消えてしまうのと同じようにね。

狸の向こうに、札幌の夏があった。


にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 札幌情報へ
にほんブログ村
↑↑↑↑↑
「にほんブログ村」に参加をしてみました。
1日1回のクリックをお願いいたします!
# by kels | 2016-08-16 21:01 | 夏のこと | Trackback | Comments(0)

いつの間に少し欠けたプリンを前にして、僕はピアノのバッハを聴き続けていた。

b0103470_20434592.jpg

「プリンをください」と、彼女は言った。
古民家を改装した静かなカフェ。
日曜日のお昼前で、他にお客さんはいなかった。

店内にはピアノのバッハが流れていた。
スピーカーは別の部屋にあるのだろう。
ピアノのバッハは、どこか遠い場所から聴こえるような気がした。

プリンとバッハ。
いつの間に少し欠けたプリンを前にして、僕はピアノのバッハを聴き続けていた。


にほんブログ村 地域生活(街) 北海道ブログ 札幌情報へ
にほんブログ村
↑↑↑↑↑
「にほんブログ村」に参加をしてみました。
1日1回のクリックをお願いいたします!
# by kels | 2016-08-16 20:52 | カフェ・喫茶店 | Trackback | Comments(0)